もう20年近く前に閉店してしまった洋食屋『キッチントップ』が阿佐ヶ谷南口のパールセンターの入り口を左に入った3ビート通りのすぐ右手にあった。その昔はすばらしく怪しげな店が集まったその通りは、とっても狭くまたいかがわしい臭いのする場所だった。そんななかで『キッチントップ』は間口2間のカウンターと仕込み場を兼ねた2階のテーブル席だけの洋食屋だった。
当時会社を起こしたばかりでお金のない僕にとって、ハンバーグとトンカツそして豚汁、ライス付き350円のランチはなくてはならないメニューだった。そしてその味がすこぶる旨かった。
この値段とこの味はどうして可能なのかとっても不思議だった。毎日通って厨房をながめ、安さの奥義が分かった。
ハンバーグはちょっと余裕のある人がハンバーグランチを頼む時に、少し大きなフライパンでランチハンバーグを一緒に焼く。だから燃料費が節約できる。そして大きな寸胴のデミグラスソースの中にどぼん、注文の出番を待つ。じっくり味が馴染んだハンバーグが完成する。
薄く均一に切られたトンカツの肉は一枚一枚計量器で計って1g単位まで大きさを揃える。調整のために切り落とされた端切れ肉はお鍋に入れて豚汁になる。まったく無駄が無い。厚さと重さがまったく同じ肉は注文の度に油にくぐらせ、短い揚げ時間でさっくりジューシーなトンカツが出来上がる。
ハンバーグとトンカツそして豚汁、ライス付き350円のランチ。
きっとあの味とは一生出会うことがないだろう。
もう覚えている人も少なくなった庶民の名店『キッチントップ』の想い出でした。
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