「キルンアート:Kiln Art」
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長年の足跡を振り返って見ると目指していたのは『キルンアート』でした。キルン(kiln)は英語で窯のこと。一般的には陶芸、七宝、ガラスなどを制作するための電気炉のことを指します。素材は違っても高温(500度〜1300度まで)に焼成することで素材に科学変化をさせて新たな命を作る仕事です。
この仕事を始めてなんだかんだと早20年が経ちました。これを機会に素材を越えてキルンをフル活用して制作してきた作品達とそのワークショップを紹介し、新しいアートの取り組みを広げることにしました。
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キルン(Kiln Art):陶芸用電気炉
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まずは肝心のキルン=電気炉の紹介から。
ギフトボックスが所有しているのはアメリカ製陶芸用電気炉2台です。平置きで30センチ角の物まで最大で40×60センチサイズのタイルまでなら焼成ができます。
大きなタイルならこんな感じで焼き上がります。
左がコンピューター制御、右がアナログ制御の窯です。ガラス等を焼く時は1度単位の温度管理が必要なので左の窯を使います。どちらも最大で1300度まで温度が上げられます。陶芸の本焼きで1250度前後なので、この2台の窯でガラス作品から陶芸作品まで作ることができます。
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テラコッタ:素焼き陶器
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テラコッタは750度〜800度前後の比較的低温で焼成する素焼き粘土です。粘土をこねて、形を作って、充分乾燥させてから焼成すれば完成です。釉薬をかけて本焼きはしませんので、素朴な土の風合いを活かした作品になります。植木鉢などもテラコッタの仲間です。
僕はこのテラコッタで顔の造形作品をよく作りました。ただし粘土地肌では汚れ易く軽い仕上がりになってしまうので、アクリル絵具を表面に軽く施して作品に仕上がています。トーテムポールも味があって雰囲気がよい作品です。
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本焼き陶器
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本焼き陶器は粘土を造形後に一度750度〜800度前後で素焼きをします。素焼きの上に釉薬をかけて再度1200〜1250度で本焼きして完成です。土の種類によって陶器、磁器などに分類されます。僕の場合は手びねりでの造形が主なので、陶器粘土を使うことが多いです。ギフトボックスの窯は電気窯なので酸化焼成ができます。和陶芸などは還元焼成で釉薬に独特の風合いを持たせるために還元焼成が出来るガス窯や石油窯が必要です。酸化焼成だけでもかなりのバリエーションの作品を作ることができます。
テラコッタ顔シリーズの上級バージョンとして陶器の顔作品を作りました。木を切り抜いてフレームワークなどを施しています。小さな作品では陶器のアクセサリーなども制作します。タイルでは形状に限りがあるので欲しい形は作ることになります。アクセサリーの色付けやガラス玉の焼付けは本焼き後に二次加工しています。この説明は別のコーナー(ガラス編)で説明します。
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低温釉薬で作る陶器
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アメリカ製の色釉薬は約1000度で焼成できます。本焼きの釉薬(1200〜1250度)に比べると低い温度での焼成です。したがってパステル調からビビッドな色まで幅広い発色の陶器やタイルが作れます。
釉薬は水で溶く(水溶性)うわ薬なので、煉瓦やテラコッタなどの素焼きタイル、植木鉢など身近な素材を使って作ることができます。その他にも石や食器などにも工夫次第で作品を作ることができます。
粘土から色々な形の素焼きのタイルを作ると、とってもカラフルでユニークな形のオリジナルタイルを作ることもできます。
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ガラス絵付け
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ガラスの絵付けはガラス用の絵具(焼成温度560度〜600度)を使って焼成します。一般的なガラスの溶解し始める温度が620度程度なので、その手前の温度で焼成することでガラスが歪んだり割れたりしないようにしています。
最近よく見かけるガラスの表札はガラスの表面にサンドブラストで彫刻したものや、彫刻した上に低温(160〜180度)焼成のアクリル絵具で色付けしたものがほとんどです。理由はガラスの焼成には温度管理などの技術が必要だからです。一点ものの制作には高いハードルになっています。
ガラスの絵具には特有の透明感があり、彫刻とはまた違った趣きを出すことができます。ひと昔前まではガラスの手描きで絵付けをする作家さんも沢山いらっしゃいましたが、近年はあまり見かけません。コスト的にプリントに取って代わられてしまったようですね。
ギフトボックスではマスキングの技法を使い手描き特有のムラを極力おさえて表札などの1点物作品を作っています。
ガラスの絵付けもなかなか好いもんですよ。
そうそう、600度で焼成した絵付け文字は雨風や紫外線では退色しません。念のため。
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ガラスフュージング
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複数のガラスを重ねて高温(800〜850度)で溶解(フューズ)させて一つのガラス作品にすることをフュージングと言います。細かな制作方法の違いによってベンディングとかスランピングなどの言い方がありますが、どれもガラスを溶かして異なる形状のガラスにすることには変りありません。
ガラスにはそれぞれ特有の膨張率があり、合わないガラス同志では亀裂が生まれて一つになりません。とても高度な技術を要します。
写真のビーナスは18年ほど前に依頼で作ったテストピースです。完成品は目黒区のとあるお医者さん宅のガラスドアにはめ込まれているはずです。もともとお持ちのビーナス像を型取りし、その先生が所有の医療用ガラスを粉砕してフュージングしました。医療用ガラスはとても堅いガラスなのでとても苦労しました。どちらかと言うとパートドベールに近い制作方法です。
もっと簡単には板ガラスと色板ガラスをフュージングして表札なども作ることができます。文字の部分は高温絵付け用の絵具を使っています。
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ガラスのクールフュージング
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造語なので聞き慣れない言葉だとおもいます。もっと手軽にガラスフュージングの作品を作るために考案した技法です。通常は高温(800〜850度)で溶解(フューズ)させてフュージングをしますが、もっと低い温度(720度前後:クールな温度)でフュージングができるように工夫をした技法です。
最大の特徴は温度が低くガラス事体の融解が少ない点をカバーするためにガラス質のフリット剤を接着剤として利用したことです。またこれによりガラス特有の膨張率の違いを融和する緩衝剤としての役割もはたしています。
10ミリのガラスタイルにミルフィオリを焼付けたガラスタイルアクセサリーはとっても可愛い作品になります。また小さなガラスタイルをアクセントとして焼付けたガラススタイルの表札なども作ることができます。
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タイルとガラスのクールフュージング
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ガラスのクールフュージングをタイルや陶磁器に応用した技術です。タイルの釉薬とガラスとがフリット剤を媒介にして綺麗に焼き付いています。あまり大きな面積のガラスを焼きつけることは出来ませんが1〜2センチ程度のガラスなら不具合無く焼きつけることができます。
平板なタイルにガラスが焼き付くことで立体感のあるタイルに生れ変わり、表現出来る作品の幅を広げることができます。飾りハンダ(メタルワークの技法)と組み合わせて月世界人のような立体作品を作ったり、またちょっと変ったタイルのアクセサリーなどを製作しています。
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タイル絵付けなどのタイルアートについては情報が膨大すぎてこのページだけでは解説ができません。ギフトボックスのトップページからご覧くださいね。
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つづく・・・
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